10(2)うましあしかびひこじのみこと

このころのご馳走はなんだったのでしょうか。 少し難しく固くるしい話ですが、古い書物から抜粋してみます。うまいものが見えてくると思います。

 

宇摩志阿斯訶備比古遅神(うましあしかびひこじのかみ)。

古事記に登場し、生命力を神格化した名前。 日本書記では「可美葦芽彦舅尊」。「うましあしかび」の働きは、まだこの世界が整っておらず、脂が浮かんでまるで海月・くらげのように漂っていた頃、そこから葦の芽のように燃え上がるものがあった。その萌え上ったもので出来たのが「宇麻志阿斯訶備比古遅神」である。

アシの芽を神格化することで成長力を現した。海辺や川辺の葦原の近くで生活していた人々の世界観を現し、水が豊富で肥沃な低湿地が、やがて稲田となって国の発展の原動力になっていく

「うまし」は、旨し、甘し、美し、味し。広義の意味で美しさ・善いものを表現する言葉。「あしかび」は葦の芽だが、かびはカビと解釈すれば、うましものを生み出すためのスタート地点。酒や塩辛、豆腐類などの発酵させることによって、うまみを増す加工食を指しているとも考えられる。

古くから日本列島の降雨量は多く、年平均で1,800ミリと世界平均の約2倍。多湿列島のため、微生物が発生しやすくそれらの中から有用菌を活用して、日本人は世界に類例をみないほど、多彩な発酵食品を生み出してきた。

まさに「ひこじ」は翁(おきな)のことで、知恵と経験を積み重ね、世事全般について何でも熟知している年老えた神のこと。

 

この時代のごちそうは、智恵と経験が生み出した発酵食品 と言えるのではないでしょうか。

 

おおげつひめ(大宜都比売、大気都比売神)

古事記に登場する穀物母神。最初は、稲の精霊であったが、のちには五穀、さらに広く一般の食物までも管轄。

高天原を追放された須佐之男命が、食べ物を分けてくれるように頼んだところ、たくさんのご馳走を口や尻から取り出したので、その振る舞いに激怒した須佐之男命が、彼女を殺してしまった。するとその屍から穀物が発生した。これが五穀(小豆、麦、大豆、稲、粟)の起源である。

物騒な話ですが、神の世界では、殺しても殺しても生まれてくる世界、まさに命で出来ているので問題なし。大地の秘めた無限の生産力の象徴として食物の収穫を表現しています。

当たり前と思う人も多いですが、稲は何百年作っても連絡障害が出ない不思議な作物。稲は大地の母に抱かれて発芽し、成長し、やがて結実して刈り取られ、その実は枯れて再び大地に戻り、次の世代の肥やしになる。まさに循環系、サステナビリティー(持続可能)である。

 

発酵食品がご馳走だったことがわかったので、漬け物の歴史を見ていきましょう。
ご参考までに、ある料理人によると、日本政府がユネスコに申請し、和食が世界無形資産に認められるかどうかというところまできたそうです。日本食の良さが世界各国に広がるといいですね。

 

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