いっしん虎鉄 なんのために生きるか

さすが山本兼一さんだ。

師匠に読めと言われ、彼の見逃した著書を立て続けに読んでいるが、やはり志を語る話は胸たぎる熱い思いが残る。やはり小説家は、一生でいくつも体験できない職業を仮想体験させ、読者の糧にするところが醍醐味だと思う。

今回は、花鳥の夢、いっしん虎鉄をいっきに読んだ。

課長の夢 じゃなく 花鳥の夢

課長の夢 じゃなく 花鳥の夢

特に花鳥の夢では、狩野永徳の心の内を、幼少期から丁寧に描いている。純粋な気持ちでただひたすら好きな絵を上手く描きたいという思いが、数百人を率いるブランドトップになり苦悩するところまで

確かに長谷川等伯への嫉妬面は、やがて息子を殺すところまでは描いてないが、それでも一門を背負う難しさ、狩野家らしき絵を追求せねばならぬ難しさが、まったく絵心がない私にでも痛々しく入り込んでくる。一方で絵師の苦悩、戦国時代ではどんなに優れた絵を全身全霊で描いても、燃えて終わるはかなさと表裏一体であることが、ひしひしと伝わってくる。

いずれにせよデジタルでいくらでも残せるが、趣がなくなるという現代との対比は考えさせられる。

いっしん虎徹そして今回のいっしん虎鉄。単なる兜の鍛冶が、35歳で志を立て、刀鍛冶になる。試行錯誤しながら、幕臣をあっと言わせ天下の名刀と言われ、あの新撰組の近藤勇が所有したと有名な、虎鉄を産むまでの苦労とひたむきさが伝わってくる。

山本さんの表現のすばらしさは、長曽禰興里(ながそねおきさと)が仏道に入り入道を名乗るときであっても、何のために生きるか鍛冶は鍛冶をするべきであって、お経を読むことではないということを、和尚にさらっと言わせる。そして、命もいらず名もいらず という、幕末の三舟 海舟・鉄舟・泥舟のひとり、鉄舟のすざまじい生き方を書いた著書が個人的には一番だと思っていますが、ここでも書かれている何のために自身は生きているかに焦点が当たっている。濡れ衣を着せられても、当初の立てた志を破ったという点で死を選ぶ勇ましさと、潔よさと、真剣さが文章の節々に伝わってくる。

写真 2015-06-19 12 19 23ほとばしる感動も覚めやらぬまま、虎鉄で検索して刀を拝もうと、画像検索するとアニメがたくさん出てくるのは、いいのか悪いのか・・・刀ラブ(トウラブ)というキーワードをコスプレの人に教えてもらったけれど、ああこれかと、安っぽく表現された絵を見て、知られる嬉しさ半分、微妙な気持ちになったことを添えておく。(笑)

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