なんとも不思議なことがありました。
このあたりの土地
たかが夜21時以降の徒歩30分の帰路だから、男一人で怖いわけも、足が疲れることもありません。
この谷町筋と呼ばれる上町大地は地形のアップダウンがあり、100年以内におこるであろう災害では、水害は来ないものとハザードマップに書かれている、坂が多い土地です。
きっかけは突然
いつも同様、ゆったりと涼しげな7月末の夜道を歩いていると、上から車椅子がすごいスピードで落ちてきました。いや実際は落ちてきたわけではありませんが、そんな感じに見えました。
相手がちょうどコンビニ前に差し掛かった時に、運悪く私が横切るカタチで急ブレーキをかけさせたような風になりました。横スライドして停車。
軽くお詫びをした際は、お顔がみえませんでしたが、その後、とても驚くことになりました。
車椅子のかご部分や、後ろの収納部分にはビニール袋がかけられ、たくさんの荷物が入っていましたが、なによりもわたしはその腰掛けた人に驚いたのです。
まるでこの車椅子には似つかわしくないであろう、ほっそりした体に、高齢だけれども、少し白髪交じりのとても上品な女性が乗っていたのです。
会釈後はその方を後にして、いち早く交差点を渡ったのですが、なぜかその方が気になりました。
それはその方からの視線を感じたせいでもあったのです。
交差点前
その交差点前で、女性はなぜか、今向いている方向の交差点を渡らず、何かを待っているように見えました。
まぁ、あまりじっくり見ると、変質者に間違われるのもややこしいので、チラ見でしたが、次の瞬間、信号が点滅を始めようとした矢先、その方は、意を決したように、タイヤ部分を回し始めました。
そして私は後悔しました。
歩いて通り過ぎると気にならなかったこの交差点は、なんと上りだったのです。この女性は、一生懸命、タイヤを何回も何回もまわしていて、その苦しい息遣いまで聞こえてくるようでした。
その次の信号が偶然赤で、その方は、わたしと同じところに止まったのです。
勇気を絞って声がけ
そこで相手のお顔をじっくり見て、自然に「大変ですね」と声がけました。押しましょうか の言葉は、やはり変質者に見られたり、余計なおせっかいだったりもするので、軽く声がけだけしたのです。
すると、その女性は、「もし迷惑でなければ次のコンビニ前まで押してもらえないでしょうか」といいました。
あぁやっぱりもっと早く言うべきだったのかと思いながら、車椅子を手にした途端、すごい重力を感じました。
なめてました。つぎは長い下りが15mほど続いていたのです。
上りとは違って、ただでさえ重く荷物満載の車椅子は、かよわいお年寄りにはあまりにも危険な坂であり重労働です。しかも腕力には多少自信があった私でも、ハンドルを持った瞬間、「あっ怖い」と声をかけてしまうほどの坂だったのです。
いかに健康な人間の歩く行為が、坂の傾斜を見えにくくしているかを味わいました。
結局、もう少し先のマンションまで押していくことになったのですが、おば(あ)さまは、最後まで第一印象と変わらぬ上品さを保っていました。にしても毎回知らない人に頼んで坂を上がり、下りるときもお願いしているというから、たくましい。いやひょっとすると、私にしか見えてない人だったり!?と別の意味での心臓破りの坂を体験した一日の終わりでした。
大阪にはトランペットおじさんとか、クラリネットおじさんの類がお城近くにいるといいますが、上本町でもし出会ったら、ぜひおしてあげてくださいませ。高齢社会はまさに今!